日本ビタミン学会

ビタミンQ&A(よくある質問)

(1) 何故、ビタミン(Vitamin)と呼ぶようになったのですか?

カシミール・フンク(Casimir Funk)が1912年の総説において、脚気、壊血病、ペラグラなど欠乏症の原因となる微量栄養素に対して「生命維持に必要なアミン類(Vital+Amine)」に因んで 「Vitamine」と名付けました [1]。フンクが1911年に報告した米糠由来の抗脚気因子(現在のビタミンB1)にはアミンの構造があったからです [2]。その後に相次いで報告されたビタミンAやビタミンCに該当する栄養素にはアミンの構造がなかったので、1920年にジャック・ドラモンド(Jack Drummond)が「Vitamine」から「e」を外して「Vitamin」と呼ぶことを提唱しました [3]。
[1] Journal of State Medicine 1912, 20(6): 341-368.
[2] The Journal of Physiology 1911, 43(5): 395-400. DOI: 10.1113/jphysiol.1911.sp001481
[3] Biochemical journal 1920, 14(5): 660. DOI: 10.1042/bj0140660

(2) ビタミンの名前はV.AからV.Eはアルファベット順ですがEの次はKです.また,V.BではV.B1,V.B2,V.B6,V.B12のように数字に欠番があります.どうしてですか?

Vitaminという名前ができた1920年には,まだ3つ(現在のVA, VB1, VC)だけしか報告されていませんでした.V.Cを報告したドラモンドは,このような微量栄養素はその後も発見されるだろうとして,Vitamin A,B,Cのようにアルファベットを付けていくことを提唱しました.
その後,多くの研究者がビタミンであろう成分を報告しましたが,「重要な栄養成分であるがビタミンの定義に合わない(例:必須脂肪酸,イノシトール,カルニチンなど)」,「後で再現できない(正体不明)」,「すでに報告されたビタミンと同じ」などといったものが,除外または統合されました。
ビタミンBについては,最初に報告されたV.Bが実は混合物であることがわかったため,V.B1,V.B2,V.B3として分類し,その後に報告された性質が似た成分にも数字を付けていきました.数字に欠番があるのはアルファベットの場合と同様な理由で,除外,統合されたものがあるからです.

(3)V.B3,V.B5,V.B7,V.B9と書かれたものを見たことがあります.これらはどんなビタミンですか?

ナイアシン(V.B3),パントテン酸(V.B5),ビオチン(V.B7),葉酸(V.B9)のことで,ビタミンB群に分類されるビタミンです.日本ではこれらのビタミンを「ビタミンB+数字」で呼んでいませんが,この呼称を使用している国もあります.

(4)それぞれのビタミンの名称は化合物名で呼ぶ方がよいのですか?

個々のビタミンにおいて,単一の化合物でなく複数の化合物であるものがあるため,それぞれのビタミンの名称は,そのビタミン活性およびビタミン活性を有する化合物群のことを称します.ナイアシンや葉酸も実は単一の化合物ではありません.ビタミンについては,化合物名で呼ぶことを化学系の研究者から提唱されましたが,栄養学者にとってはビタミン名で呼ぶほうが説明しやすいので継続して使用することが主張され,現在に至っています.

(5)ビタミンB1やB2などのように、ビタミンKやDにも数字が付与されているものを見たことがありますが、どのような違いがあるのでしょうか?

ビタミンB群においてはBと数字の組み合わせで異なるビタミンを分類していますが,ビタミンKにおいてはビタミンK1(フィロキノン)とK2(メナキノン),K3(メナジオン),ビタミンDにおいてはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とD3(コレカルシフェロール)というように,同じビタミンに分類される化合物に数字を付与することで区別しています,この呼び方は現在も一般的に使用されています.ビタミンAにおいても,かつてビタミンA1(レチノール),A2(3-デヒドロレチノール)という名称がつけられましたが,現在はほとんど使用しません.

(6)ビタミンDが1932年に、ビタミンEが1924年に発見されているのに、アルファベットの順番が逆になっているのはどのような理由でしょうか。

「因子として予測された年」「その成分が単離された年」「構造が決定された年」というふうに、「予測」「発見」「構造決定」と、さらには、「その成分がビタミンである」ということがことが真実として確立されるまでに年月がかかっているからです.

(7)ビタミンF・G・H・I・J・Pというものを聞いたことがあるのですが、これらの現在の成分を教えてください。

Fは、「必須脂肪酸」のことです。現在はビタミンの定義にあてはまりませんが、必須脂肪酸は生体の維持に重要な栄養素です。
Gは、のちに「ビタミンB2]であることが判明しました。
Hは、現在の「ビオチン」のことで、ビタミンB群です。
Iは、米糠の成分として報告されていますが、詳細は不明です。
Jは、正体不明です。(結果の捏造、もしくは、研究者の思い込みではないかと考えられています。)
Pは、現在の「フラボノイド(ポリフェノール)」に相当するもののことです。

(8)ビタミンPと称される成分があるようですが、それは正しい呼称でしょうか。

現在の「フラボノイド(ポリフェノールの仲間)」に相当するもののことです。
フラボノイドのうち、ヘスペリジン(ヘスペレチン配糖体)とルチン(ケルセチン配糖体)に対して、ビタミンPと名づけて報告されました。「血管透過性を亢進する」機能があるため、「透過」を意味する「permiation]の頭文字のPを採用したとのことです。
日本では食品添加物でビタミンPと表示することが認められているので、違法ではありません。しかしながら、ビタミンの定義にあてはまらないので、学術上はビタミンPと呼ぶことはできません。

やさしいビタミンの話

ビタミンとは

 栄養素(正常な生命活動維持のために体内に取り入れる物質)には、糖質、タンパク質、脂質、無機質(ミネラル)およびビタミンがあります。ヒトの体は細胞から成っていますが、その細胞は水、無機質以外はさまざまな有機化合物からできています。食物として摂取された栄養素が消化により一旦分解された後、吸収され、細胞の中でそれぞれ特有の必要な化合物が合成されます。ところが、体の中で新たにつくることができない有機化合物で、しかも生命に必須な微量化合物があります。それがビタミンと呼ばれる化合物で、必ず摂取されなければなりません。

 ビタミンとは、一口にいえば,微量有機栄養素である.すなわち,正常な生理機能を営むために必要不可欠であるが,その必要量を体内で作れないので体外から取り入れなければならない有機化合物のうち,必要量が微量であるものの総称である.一般に13種類の化合物がビタミンと呼ばれています。

ヒト以外のほ乳動物もおおむねビタミンを自分でつくることができません。しかし、植物、微生物はビタミンをつくる能力を持っていることが多く知られています。したがって、ビタミンは食物として摂取される以外に、腸内細菌によってつくられてその必要量の一部として供給されるビタミンもあります。それらのビタミンの欠乏症は比較的起こりにくくなります。

最近では、ビタミン様作用を示す化合物および無機質などもビタミンに準じて考えられており、バイオファクターと呼ばれています。ホルモンも微量で作用する化合物ですが、体内でつくられます。

ビタミン(vitamin)という名前は、1912年にビタミンB1が発見された時に、生命(vital)に必要な、そして、窒素を含むアミン化合物(amine)という意味でつけられました。その後、いろいろなビタミンが発見されアミンではない化合物も少なくありませんが、ビタミンと呼ばれ、英語では vitamin と表します。

ビタミンには、水に溶ける水溶性ビタミンと水に溶けないで油脂に溶ける脂溶性ビタミンとがあります。

ビタミンB1、B2、B6、B12、葉酸、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸などは水溶性でB群ビタミンと呼ばれます。ビタミンCも水溶性ビタミンです。

脂溶性ビタミンには、ビタミンA、D、E、Kがあります。これらのビタミンの名前は、発見された順番あるいは生理作用をあらわす意味でつけられています。

このホームページの以下の部分で、それぞれのビタミンについて、どのように発見されたか、どのような化合物か、さらに、それらの生理作用と生化学、食事摂取基準、多く含まれる食品などについて解説されています。また、欠乏症および脂溶性ビタミンでは過剰症についても述べられています。

現代の日本では、ビタミン欠乏症は少なくなってきましたが、最近、高齢者や若者のアンバランスな食生活による潜在性欠乏症が大きな問題になっています。また、多くは遺伝的疾患としてのビタミン依存症も明らかになりつつあります。さらに、これまで知られていなかったビタミンの新しい機能も見つかってきています。

いろいろなビタミンについての解説

ビタミンのさまざまな働きを説明しています。また、新しく発見された生体物質をわかりやすく説明しています。

水に溶ける(水溶性)ビタミン

 ↓タイトルをクリックすると、内容が表示されます。

(1) ビタミンB1

1. 発見・化学名

明治15年(1882年),高木兼寛が軍隊,学生に多発する疾患(脚気)の栄養学説を提唱しました.1897年オランダの医学者C.Eijkman(1929年ノーベル医学賞授賞)によって鳥類白米病が米ヌカで予防,治療できることを始めて報告し,以来,世界中がヌカの研究に集中し,明治43年(1910年)鈴木梅太郎は初めて,抗脚気物質をヌカから抽出し、アベリ酸,後にoryzaninと命名しました.次いで翌年,C.Funkも同様の物質を分離し,アミンの性質を示したことから,生命に必要な(vital)アミンという意味からvitamineと名付けました.しかし,これらは何れも純品ではありませんでした.純粋なチアミンは,1926年B.C.P. Jansenらにより結晶が得られ,その約10年後,R.R.Williamsらにより化学構造の決定,化学合成がなされました.この発見により我が国を中心とした東洋諸国の幾百万の脚気患者が死から救われた歴史は画期的なものでした.
ビタミンB1(B1)の化学名は,チアミンthiaminが用いられています.

2. 欠乏症

ビタミンB1欠乏にはビタミンB1の欠如する精白米を常食とする東洋に多い脚気と西洋に多いウエルニッケ脳症があります.また,幼児に激症型の急性B1欠乏症である乳児脚気の発症があります.脚気の症状は全身倦怠,心悸亢進,心臓肥大,浮腫,最低血圧低下,四肢の知覚異常,腱反射消失,知覚鈍麻などがあり,心臓と末梢神経の疾患です.ウエルニッケ脳症は中枢神経疾患で,眼球運動麻痺,歩行運動失調,意識障害を伴いますが,慢性化しますと,コルサコフ症という精神病に移行します.この両者をまとめて,ウエルニッケーコルサコフ症候群と呼び,アルコール摂取の多い人に多発し,アルコール中毒の関与が注目されています.乳児脚気は,食欲不振,嘔吐,緑便,筋硬直発作,心障害,チアノーゼがおこり,治療が遅れると12-24時間以内に死亡することもあります.
その他,B1代謝異常症として,生後1週間以内に嘔吐,けいれん,昏睡などを主症状として発症するメープルシロップ尿症,嚥下困難,視力障害,けいれん,末梢神経障害などを主症状とする亜急性壊死性脳症,があります.
水溶性ビタミンであるB1は多量に摂取しても過剰分は速やかに尿中に排泄されるので,大きい害は見られません.

3. 生化学と生理作用

ビタミンB1(thiamin,チアミン)は,天然にはB1とチアミン一リン酸(TMP),チアミン二リン酸(TDP)(チアミンピロリン酸ともいう),チアミン三リン酸(TTP)の3種のリン酸エステルがあります.B1は白色結晶で,水に溶け,酸や熱には安定ですが,アルカリ条件下では不安定です.リン酸塩類も白色結晶で,水に溶けますが,熱,アルカリ条件下では不安定です.
ビタミンB1類緑化合物は経口摂取されるとすべてホスファターゼによりB1となって吸収され,生体内で再びリン酸化され,リン酸エステル類になります.生体内ではトランスケトラーゼ,ピルビン酸脱水素酵素,α-ケトグルタル酸脱水素酵素など糖代謝酵素の補酵素となるTDPが最も多く,活性型B1といわれています.神経における特異的作用も知られており,この場合TTPの型が注目されます.
体内で利用されていたチアミンリン酸エステル類はビタミンB1になり,さらに,チアゾール,ピリジンに分解され,ビタミンB1そのままの形のものと併せて尿中に排泄されます.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ビタミンB1の推定平均必要量は,尿中に排泄されるビタミンB1量から,塩酸チアミン相当量として0.45mg/1,000kcalと算定され,推奨量は0.60mg/1,000kcal(推定平均必要量×1.2)と決められています.1日当たりの量に換算するには,推定エネルギー必要量を乗じて計算します.たとえば,18~29歳の男性および女性で身体活動レベルⅡ(ふつう)の場合の推奨量は1.4mg/日および1.1mg/日です.
ビタミンB1を多く含む食品として,日本食品標準成分表によると,ブタヒレ赤肉(生),とり肝臓,カモ肉,大豆ブラジル産(乾),落花生(乾),ウナギかば焼き,フナ(生),コイ(生),小麦玄穀,ソバ粉(全層粉),玄米,グリンピース(生)が挙げられますが,中でも豚肉が一番高濃度のビタミンB1補給源です.

(2) ビタミンB2

1. 発見・化学名

ビタミンB2(B2)は,19世紀における動物の成長に不可欠な未知の微量因子の研究により,水溶性で熱に安定な成長促進因子として天然物から抽出・精製されました.初期には”ビタミンG”と呼ばれ,1927年に”ビタミンB2“と称されることになりました.後にいくつかの因子の複合体であることが判明しましたが,1933年にR. KuhnらによってネズミのB2欠乏症を治癒する物質として単離されました.
心臓の筋肉から”Cytoflavin”,卵白から”Ovoflavin”,乳漿から”Lactoflavin”,肝臓から”Hepaflavin”として種々の天然物から抽出,精製され,材料由来の命名が行われました.これらの物質はいずれも蛍光性の黄色色素であることからフラビンと名付けられましたが,合成などによる構造決定の結果に基づいて,1937年にリボフラビン(RF)という名称が正式に採用されました.光により分解されやすく,特にアルカリ性条件下での分解が顕著であり,分解によりルミフラビンを生じます.RFは橙黄色針状結晶で,水に可溶,アルコールに微溶,エーテルなどには不溶です.
通常,B2と呼ばれるビタミンは基本化合物である7,8-ジメチル-10-リビチルイソアロキサジンの構造を有するRFとともに,補酵素として働くフラビンモノヌクレオチド(FMN)およびフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を指します.前者ではRFにリン酸が一つ結合しており,後者ではRFにアデニンが二つのリン酸を介して結合しています.

1. 欠乏症

ビタミンB2の欠乏症状は成長障害のほか,口唇炎,舌炎,脂漏性皮膚炎など皮膚や粘膜に炎症が生じます.ビタミンB2欠乏症は摂取不足のほかに多量の抗生物質,精神安定剤,副腎ホルモンなどが投与された時にもみられることがあります.B2は一定以上は吸収されない上に速やかに排泄されるので,過剰症は認められず,毒性は少ないビタミンです.

3. 生化学と生理作用

ビタミンB2については栄養学的研究と平行して研究の初期から酵素学的な面からの研究も進められました.すなわち,1932年には酸化反応を触媒する黄色酵素の黄色部分がリボフラビン-5′-リン酸(FMN)であることが明らかにされ,また1938年にはアミノ酸酸化酵素の補酵素部分がやはりB2誘導体の一つであることが推測され,1952年FADの構造が決定されました.生体内ではB2の大部分はこれらの補酵素型で存在しています.
FMN,FADはそれぞれRFから細胞内で酵素,フラボキナーゼおよびFAD合成酵素により作られます.両者とも生体内の酸化還元反応を触媒する数多くの脱水素酵素や酸化酵素の補酵素として重要であります.B2が”発育ビタミン”ともいわれるように,特に発育に対する影響が顕著であるのは,このように糖質,タンパク質,脂質などの代謝に与る酵素の補酵素としてのB2の機能・生理作用によります.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ビタミンB2の推定平均必要量は,尿中に排泄されるB2量から,リボフラビン相当量として0.50mg/1,000kcalと算定され,推奨量は0.60mg/1,000kcal(推定平均必要量×1.2)と決められています.1日当たりの量に換算するには,推定エネルギー必要量を乗じて計算します.たとえば,18~29歳の男性および女性で身体活動レベルⅡ(ふつう)の場合の推奨量は,それぞれ1.6mg/日および,1.2mg/日です.
ビタミンB2を多く含む食品として,日本食品標準成分表によるとブタ肝臓やウシ肝臓などの内臓類,脱脂粉乳,ドジョウ(生),塩サバ,納豆糸引きが挙げられます.

(3) ビタミンB6

1. 発見・化学名

ビタミンB6は,1934年,イギリス人科学者によって,ネズミのペラグラ様皮膚炎の予防因子としてビタミンB2複合体中にその存在が指摘されました。その後,酵母,米ヌカなどから抽出され,1938年には,世界の5カ所の研究者らがほとんど同時に,ビタミンB6の結晶化に成功したことを発表しました。日本の理化学研究所の市場・道の報告もその中の1つです。翌1939年には,Kuhnおよびによって,結晶化したB6化合物の化学構造が3-ヒドロキシ-4,5-ビス(ヒドロキシメチル)-2-メチルピリジンであると決定されました。はこの化合物をピリドキシン(pyridoxine;PN)と呼ぶことを提唱しました。また,Kuhnはこの化合物が皮膚炎の予防因子であるという意味からアデルミン(adermin)と命名しましたが,この名称は現在では使われていません。
その後,アメリカのSnellらによる微生物増殖因子に関する研究に始まり,ビタミンB6活性を有する化合物がピリドキシン以外に複数存在することが明らかになりました。そして今日では,ピリドキシン,ピリドキサール(pyridoxal;PL),ピリドキサミン(pyridoxamine;PM)とそれらの5’位でのリン酸エステル型を加えた6種類がビタミンB6化合物として認められています。

2. 欠乏症

成長の停止,体重減少,てんかん様痙攣などが外見的に見られるビタミンB6欠乏症です。その他,動脈硬化性血管障害,筋肉の緊張低下,貧血,脂肪肝等が報告されています。これらの症状の多くは生活習慣病として知られている病気の際に観察されるものです。また,ネズミでは胸腺萎縮,抗体産生の低下,ニワトリの場合,産卵停止など,ヒトでは皮膚炎,口唇炎,舌炎,神経炎,食欲不振等が記録されています。
ビタミンB6欠乏時の代謝上の変化としては,ビタミンの血中濃度の減少,トリプトファンの代謝中間体であるキサンツレン酸の尿中排泄量の増加,メチオニンの代謝中間体であるホモシステインの尿中排泄の増加などが知られており,これらは臨床診断の方法として使われています。

3. 生化学と生理作用

ビタミンB6の生理作用は,ピリドキサール5′-リン酸(pyridoxal 5’-phosphate;PLP)およびピリドキサミン5′-リン酸(pyridoxamine 5’-phosphate;PMP)の形で100種類以上の酵素の補酵素として機能することです。いわゆるB6-依存性酵素の触媒する反応は,アミノ酸の相互転換やアミノ酸のエネルギー源としての供給に関与する各種アミノ基転移反応,セロトニン,ドーパミン,アドレナリン,ヒスタミン等の,生理活性アミンの合成に関与する脱炭酸反応,セリン,トレオニン代謝における脱水反応,リプトファンおよびメチオニンの代謝(α,β-脱離反応,α,γ‐脱離反応),ラセミ化反応,縮合反応など多岐にわたります。グリコーゲンを分解して絶食時に血糖を供給するグリコーゲンホスホリラーゼの補欠分子族であります。
その他,近年になってPLPが遊離の形で,遺伝子発現の調節に関与する事実が発見され免疫応答をはじめ発がん予防,抗酸化作用,心臓病予防作用,グリケーション抑制作用など多くの新規機能が報告され,研究成果が蓄積されてきています。

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ビタミンB6の推定平均必要量は,血漿中のB6補酵素型であるPLPの濃度から算定されています。ピリドキシン相当量として,推定平均必要量は0.019mg/gたんぱく質,推奨量は0.023mg/gたんぱく質(推定平均必要量×1.2)と決められています。1日当たりの量に換算するには,たんぱく質の食事摂取基準の推奨量を乗じて計算します。たとえば,18~29歳の男性および女性での推奨量は,それぞれ1.4mg/日および1.1mg/日です。
ビタミンB6は,動物性食品にも植物性食品にも広く存在しますが,植物性食品の多くに含まれるピリドキシンの糖誘導体は,生体利用率が低いことが判明しているので動物性食品からの供給が効果的です。
ビタミンB6を多く含む食品としては,日本食品標準成分表によると,ニンニク・りん茎(生),ピスタチオ,ヒマワリの種子,各種マグロ(生),ウシ肝臓,トリささみ肉(生),アマ海苔(干し海苔),ウシ肝臓などが挙げられます。

(4) ビタミンB12

1. 発見・化学名

ビタミンB12(B12)は,抗悪性貧血因子として発見されましたが,1926年MinotとMurphyによって,悪性貧血に肝臓療法の有効なことが見いだされ,この未知因子探求の発端となる重要な手がかりが与えられました.続いてCastleによって,食物中に含まれる抗悪性貧血因子は,それ自体では効力を示さず,胃液中に含まれる成分も必要なことが明らかにされ,胃液中の成分を内因子(intrinsic factor,IF),抗悪性貧血因子の方を外因子と呼ぶことが提唱されました.
この抗悪性貧血因子は,1948年G.R. Rickesら,E.L. Smithらにより,それぞれ独立的にほぼ同時に大量の牛の肝臓から深紅の結晶として単離され,ビタミンB12と名付けられました.
1956年D.M.C. HodgkinらがX線解析によりB12(シアノB12)の全構造の解明に成功しました.また,H. Barkerらが細菌におけるグルタミン酸異性化反応に関与する光に不安定な補酵素型B12を発見し,それが LenhertとHodgkinの解析によって,アデノシルB12であると判明しました.その後,Lindstrandらが,人体内にメチルB12が存在することを示し,現在知られている補酵素型の二つのB12が出そろいました.
1972年P.B. Woodwardらが,B12前駆体のコビル酸を合成し,続いてB12の全合成に成功しました.
ビタミンB12は,中心にコバルト原子を含むテトラピロール系化合物で,下方からヌクレオチド塩基の5,6-ジメチルベンズイミダゾールが配位した完全型のビタミンB12は,コバラミンとも呼ばれます.完全型,不完全型の種々のビタミンB12類縁体が存在し,上方からシアノ基の配位したシアノB12(シアノコバラミン,狭義のビタミンB12),ヒドロキシル基の配位したヒドロキソB12,上述のメチルB12,アデノシルB12などが主要なコバラミンです.

2. 欠乏症

ビタミンB12の欠乏症は,巨赤芽球性の悪性貧血が代表的なものですが,メチルマロン酸尿(血)症,ホモシステイン尿(血)症や神経障害なども発症します.
最近では,睡眠遅延症候群や,がん,アルツハイマー症などとの関係や,特に動脈硬化症発症との関係が注目されています.

3. 生化学と生理作用

ビタミンB12は,回腸から吸収されますが,その後トランスコバラミンII(TCII)と呼ばれる血中のタンパク質と結合して血液中を運ばれ,受容体により細胞に入り,補酵素型に変換されます.
現在ビタミンB12関与酵素として10種余り知られていますが,ヒトの場合には,主としてメチルB12の関与するメチオニンシンターゼとアデノシルB12が関与するメチルマロニル-CoAムターゼの二つの酵素が働いています.前者の酵素系は,5-メチルテトラヒドロ葉酸からのメチル基を受け,それをホモシステインに移しメチオニンを生成する反応を触媒します.後者は,メチルマロニル-CoAのスクシニル-CoAへの変換を触媒します.これら酵素は,核酸,タンパク質,脂質,炭水化物の代謝などに関係しますが,メチオニンシンターゼの方がDNAなどのメチル化を含むC-1ユニット代謝にかかわり,生理的により主要な働きをしている可能性が高いと考えられます.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ビタミンB12の推定平均必要量は,血液学的性状および血清B12濃度を適正に維持できる濃度から算定されています.シアノコバラミン相当量として,18~49歳の成人で推定平均必要量は2.0μg/日,推奨量は2.4μg/日(推定平均必要量×1.2)と決められています.B12の食事摂取基準には男女差はありません.
ビタミンB12を多く含む食品として,日本食品標準成分表によると,肝臓・ウシ肝,青魚・サンマ,貝類・アサリが挙げられますが,卵や乳製品なども比較的良い給源です.ビタミンB12は微生物によってしか生合成されないため植物性食品にはほとんど含まれていませんが,例外的にあま海苔・アサクサノリ(ほしのり)(77.6)などに多く含まれています.これは付着バクテリアなどに由来するものと考えられています.

(5) ビタミンC

1. 発見・化学名

1928年 A. Szent-がウシ副腎から新しい糖類似物質を結晶状に分離し,へキスロン酸と命名しました.ほとんど同じ時期にC.G. Kingらによってレモンから分離されビタミンCと確認された.ビタミンCの化学名はアスコルビン酸(ascorbic acid, AsA)ですが,これは抗壊血病効果をもつ酸,すなわち抗(anti-),壊血病の(scorbutic),酸/因子(acid)に由来します.

2. 欠乏症

ビタミンCの研究は,欠乏に由来する壊血病とその治療から始まりました.この病気は全身倦怠,疲労感,関節痛,身体各部からの出血をもたらします.
ウシ,ウマ,ブタなどの他の多くの動物はブドウ糖を初発物質としてウロン酸サイクルを利用して合成しますが,ヒト,サル,モルモット,高等な鳥類などは,ビタミンCを合成できません.これらの動物では生合成経路の最終段階を触媒するグロノラクトン酸化酵素が遺伝的に欠損しているからです.

3. 生化学と生理作用

生体内では,ビタミンCのほとんどは還元型AsAですが,一部酸化型AsAとして存在します.ビタミンCは酸味を有する無色の結晶で,水,アルコールにもよく溶けますが,エーテルやベンゼンなどの有機溶媒には不溶です.
ビタミンCは酸性では比較的安定ですが,アルカリ性では容易に酸化されます.
ビタミンCの酸化は二段階で進みます.一電子が引き抜かれモノデヒドロAsAになり,この中間体は二分子の不均一化反応によりAsAと酸化型AsAになります.ビタミンCが効率的に生理機能を発現するためには,AsAの再還元系が必要となります.モノデヒドロAsAはNAD(P)Hを電子供与体とするモノデヒドロAsA還元酵素により,デヒドロAsAはグルタチオンを利用する還元酵素により再還元されます.
ビタミンCの機能はその還元力によるものです.以下に,簡単に生理機能を述べます.
a) 抗酸化作用:ビタミンCはスーパーオキシド (O2-),ヒドロキシラジカル (・OH),過酸化水素 (H2O2),一重項酸素 (1O2) などの活性酸素種の消去剤として機能します.
b) コラーゲンの形成:ヒトの総タンパク質の約30%を占めるコラーゲンの合成に関与します.コラーゲンが正常な三次構造を形成するためにそのペプチド鎖中に多く含まれるプロリンとリジンが水酸化される必要があります.この水酸化を触媒する酵素は鉄イオンを必要としますが,その還元にビタミンCが必要です.
c) 生体異物の代謝:体内に進入したさまざまな異物はシトクロームP-450という酵素タンパク質で解毒/代謝されますが,ビタミンCはこれらの酵素タンパク質の維持に必要です.
d) コレステロール/脂肪酸の代謝:Cは脂肪酸の分解に関与するカルニチンがリジンから生合成される過程の二つの水酸化酵素のコファクターなります.さらに,コレステロールから胆汁酸を合成する酵素の維持にもビタミンCが必要とされます.
e) アミノ酸,ホルモンの代謝:副腎髄質や神経組織で,チロシンからノルアドレナリンが生成される過程に含まれるドーパミンヒドロキシラーゼにビタミンCが必要です.
他に,ビタミンCは鉄イオンを2価に保つことで吸収を促進します.消化管内での発がん物質の一つであるニトロソアミンの生成を強く抑制します.また,大量摂取による薬理作用として,免疫能の増強,抗腫瘍作用,抗動脈硬化作用,抗血圧作用,抗ヒスタミン作用,白内障予防などが報告されています.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ビタミンCの推定平均必要量は,ビタミンC欠乏症である壊血病の予防を指標とせず,心臓血管系の疾病予防効果ならびに有効な抗酸化作用が期待できる血漿ビタミンC濃度値の維持から決められています.アスコルビン酸相当量として18~49歳の成人で推定平均必要量は,85mg/日,推奨量は100mg/日(推定平均必要量×1.2)です.ビタミンCの食事摂取基準には男女差は設けられていません.
ビタミンCを多く含む食品として,日本食品標準成分表によると,パセリ,ブロッコリー(ゆで),ピーマンなどの緑黄色野菜やミカン(生),イチゴなどの果物,緑茶が挙げられます.有効的な摂取を考えると,一食あたりの摂取量が多いジャガイモ(水煮)などの芋類はよい供給源となります.

(6) 葉酸

1. 発見・化学名

葉酸の歴史は,L. Wills(1931)によって悪性貧血に酵母エキスや肝臓エキスが有効であるという発見に始まります.その後,サルやヒナの抗貧血因子あるいは乳酸菌の生育因子として認められました.H.K. Mitchelら(1941年)は,ホウレンソウの中に含まれる乳酸菌の生育因子を葉酸(folic acid)と名付けました.これは,ラテン語の葉(folium)に由来しています.それまでに見い出されていたビタミンM,U因子,ビタミンBcなどは,葉酸あるいは葉酸含有物でありました.その後,肝臓から結晶状に単離され,R.A.Angierら(1946)によって,構造がプテロイルグルタミン酸と決定され,化学合成行われました.
葉酸の化学構造は,N-ヘテロ環のプテリンとp-アミノ安息香酸からなるプテロイン酸に1-7個のグルタミン酸が結合したプテロイル(ポリ)グルタミン酸です.天然型の葉酸は,還元型でジヒドロ体かテトラヒドロ体に種々の1炭素単位が結合した形,およびそれらのγ‐ポリグルタミン酸として存在しています.すべての動植物の組織中に葉酸化合物として分布しています.
還元型葉酸は,葉酸補酵素と呼ばれ,ヌクレオチド類の生合成・分解系,グリシンやセリンなどのアミノ酸の代謝,メチオニンのメチル基の生成転換系,ヒスチジン代謝などに関与していることが明らかにされています.
プテリンは,ヒトでは生合成されるために,本来ビタミンではありませんが,近年の先天性代謝異常症の研究から補酵素的機能を持つことが明らかにされています.プテリンは,「蝶の翅」の色素を表す言葉で,天然プテリジン化合物の総称であります.ビオプテリンの還元型であるテトラヒドロビオプテリンは,プテリン依存性オキシゲナーゼであるフェニルアラニン水酸化酵素などの補酵素です.最近,プテリン依存性オキシゲナーゼは,神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンの生合成にもかかわっていることが分かってきました.
葉酸は,橙黄色の針状結晶で,酸およびアルカリ溶液には溶けますが,純水やエタノール,にはほとんど溶けず,有機溶剤にも不溶であります.水溶液は黄色であり,光や紫外線によって分解されます.また,紫外部に特異的な吸収帯を持っています.

2. 欠乏症

葉酸は,通常の食生活では,欠乏することはありません.葉酸の欠乏症状としては,造血機能に異常を来し,巨赤芽球性貧血,神経障害や腸機能障害などが知られています.欠乏症は,抗がん剤,免疫抑制剤,非経口栄養剤の投与および血液透析などの際に起こります.
一方,葉酸を大量(1-10mg)に摂取すると,発熱,蕁麻疹,紅斑,かゆみ,呼吸障害などの葉酸過敏症を起こすことがあります.また,亜鉛と複合体を形成し,亜鉛の吸収を阻害する可能性が指摘されています.

3. 生化学と生理作用

食品に含まれる葉酸は,主にプテロイルポリグルタミン酸型であります.小腸粘膜上で,亜鉛酵素であるγ-グルタミルヒドロラーゼ(通称コンジュガーゼ)によって,モノグルタミン酸型へ速やかに分解されます.モノグルタミン酸型は,葉酸レセプターと結合して小腸粘膜を通過します.小腸細胞内では,ジヒドロ葉酸レダクターゼによって,プテリン環が還元されてテトラヒドロ型に変換されます.テトラヒドロ型は,さらにメチル化されてメチルテトラヒドロ葉酸となり小腸膜を透過して,血液により末梢組織に運ばれます.肝臓や組織に取り込まれたメチルテトラヒドロ葉酸は,メチオニン生合成系においてメチル基供与体として関与しています.この反応には,メチオニンシンターゼと補助因子としてビタミンB12が関与しています.またプテロイルポリグルタミルシンテターゼなどによりメチルテトラヒドロポリグルタミン酸型として貯蔵されています.
還元型葉酸は生理活性を持っており,モノグルタミン酸型は血漿,尿,脳脊髄液などの体液循環型として機能し,組織内に存在するポリグルタミン酸型はタンパク質に結合して機能しています.とくに核酸合成に必要なプリンやピリミジンの生成に補酵素として必須であることから,細胞の分裂や機能を正常に保つために重要な役割を果たしています.
妊娠中に葉酸が不足することがあり,出産児に神経管閉鎖障害を発症することが懸念されています.しかし受胎前後の十分な葉酸摂取によって,神経管閉鎖障害の発症リスクを低減できることができます.このため,わが国でも,「妊娠前から400μg/日の葉酸を摂取することが重要である.」とされています.
最近高ホモシステイン血症が,脳血管疾患や心疾患のリスクファクターとして注目されています.葉酸はホモシステインからメチオニンの転移に不可欠であります.このため,葉酸の摂取量が低下すると,血漿ホモシステインの上昇がみられ,ホモシステインが血管内皮細胞や血液凝固因子に影響していると考えられています.このように,葉酸は,神経管閉鎖障害や動脈硬化症の発症ともかかわっています.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

葉酸の推定平均必要量は,赤血球中葉酸濃度と血漿ホモシステイン濃度値の維持から算定されました,プテロイルモノグルタミン酸相当量として,18~29歳の成人で推定平均必要量は,200μg/日,推奨量は240μg/日(推定平均必要量×1.2)と決められています.葉酸の食事摂取基準には男女差はありません.
葉酸を多く含む食品として,日本食品標準成分表によると,大豆(乾),ホウレン草(生),乾燥ワカメ,ウシ肝臓などが挙げられます.

(7) ナイアシン

1. 発見・化学名

ニコチン酸は,C. Huberが1867年に,タバコに含まれる有毒成分の一つであるニコチンを硝酸で酸化して得たのが最初であり,ニコチンを酸化して得られた酸であることから,ニコチン酸と名づけられました.
このニコチン酸にビタミン活性があることを発見したのはC.A. Elvehjemらであり,1937年のことでした.彼らは,黒舌病(こくぜつびょう:ヒトのペラグラに類似の病気)になったイヌに,ニコチン酸を投与することによって,黒舌病を治癒させました.一方,彼らは,黒舌病治癒因子を肝臓から単離し,この化合物はニコチン酸がアミド化されたものであったことから,それをニコチンアミドと名づけました. 1938年になると,ヒトのペラグラもニコチン酸で治癒することが明らかにされました.一般に現在では,ニコチン酸とニコチンアミドを総称して,ナイアシンと呼んでいます.

2. 欠乏症

ナイアシン欠乏症のぺラグラは,皮膚が荒れ,下痢が起り,精神神経に異常をきたし,治療をしないとやがて死に至ります.特に,紫外線を受けた皮膚は赤く腫れ上がり,やがて黒ずんできて,かさぶたのようになるのが特徴です.イヌでは,舌が黒くなる黒舌病が起ります.ラットでは,はじめは食欲不振となり,成長が止まり,毛が抜け,毛並みが悪くなります.さらに進行すると四肢がケイレンするようになります.
ナイアシン欠乏時の代謝上の変化としては,血液中の活性型NAD(酸化型+還元型)量は低下しますが,NADP(酸化型+還元型)量はあまり低下しません.したがって,NAD/NADP比は,ナイアシン栄養の指標となります.ちなみに,ヒト全血1ml中のNAD含量は30nmol程度,NADPは10nmol程度であり,その比率は約3です.

3. 生化学と生理作用

ナイアシンの主な生理作用は,NAD+,NADH,NADP+,NADPHとして,約500種類の酵素の補酵素として機能することにあります.現在までに知られている酵素の総計は約2200種類であることから,これらが,いかに多くの酵素反応に関与しているかがわかりますし,全補酵素中で最も多い数です.
グルコースなどの糖質,脂肪酸,アミノ酸からATPが作られます.これらのエネルギー産生物質から電子がNAD+に移されることが,ATP産生の初発反応です.NADPHは体内でグルコースから脂肪酸が作られる時に必要です.NADH,NADPHは体内において酸化された化合物を元の還元状態に戻すのに使われます.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ナイアシンの推定平均必要量は,尿中に排泄されるナイアシンの異化代謝産物の一つであるN1-メチルニコチンアミド排泄量から,ナイアシン当量(niacin equivalent:NE)として4.8mgNE/1,000kcalと算定され,推奨量は5.8mgNE/1,000kcal(推定平均必要量×1.2)と決められています.1日当たりの量に換算するには,推定エネルギー必要量を乗じて計算します.たとえば,18~29歳の男性および女性で身体活動レベルⅡ(ふつう)の場合の推奨量は,それぞれ15mg/日および11mg/日です.
ナイアシンは,人でも,必須アミノ酸のトリプトファンから生合成でき,その転換率は,一般に,重量比で1/60程度です.そこで,ナイアシン当量(NE)という概念が生まれました.1㎎NEとは,1mgニコチン酸,1mgニコチンアミド,あるいは60mgトリプトファンに相当します.したがって食品中のナイアシン当量は,ナイアシン(㎎NE)= ニコチン酸(mg) + ニコチンアミド(mg) + 1/60 トリプトファン(mg).
ナイアシンを多く含む食品として,マイタケ(乾),タラコ(生),インスタントコーヒー(粉末),かつお節,パン酵母(乾),ビンナガ(生),からしめんたいこ,メジマグロ(生),カツオ春どり(生),キハダ(生),落花生(乾)が挙げられます.

5. 備考

薬理作用について
ニコチン酸を毎日大量
(数グラム/日)に投与すると,血清コレステロール低下作用が発現します.特にアメリカでは,心筋梗塞などの高コレステロールに起因する疾病の予防と治療に,広く使われていますが,その副作用としてフラッシングがあります.フラッシングとは,一度に100~200mg以上のニコチン酸を投与すると,体のほてりや痒みが出る作用ですが,2~3時間すれば治ります.
ニコチンアミドは,大量投与による,ある種の糖尿病の予防・治療効果,アポトーシス阻害作用も報告されています.
ニコチン酸とニコチンアミドの生理作用は,上述のように補酵素作用であって等価ですが,興味深いことに薬理作用に関しては,両者は全く異なります.

(8) ビオチン

1. 発見・化学名

ビオチンの歴史は,E. Wildiersら(1901)が酵母の成長を促進させる有機成分を発見したことに始まります.この栄養成分は,ビオスと呼ばれ,その後三つの成分からなることが明らかにされました.その一つがビオスIIbであり,ビオチンと名付けられました.一方,M.A. Boas(1927)は,実験動物に生卵白を多量に与えると,皮膚炎や脱毛などが起こることを見いだしました.これは,いわゆる卵白障害であり,肝臓に存在する防御因子Xによって治癒することが可能でした.P. Gyorgy(1931)は,この因子をビタミンHと名付け,根粒菌の補酵素Rと同じものであることを明らかにしました.その後,ビタミンHは,ビオチンと同一の特性を持つことが認められました.
F.Lynen(1961)らは,ビオチンがカルボキシラーゼの補酵素として,炭酸固定反応や炭酸転移反応にかかわっていることを明らかにしました.同じ頃,ビオチンの生合成経路の解明や定量法の開発もなされてきました.
ビオチンの化学構造は,V. du Vigneaudら(1942)によって決定され,天然に存在するビオチンはD型であります.ビオチンは無色の針状結晶であり,水に可溶で,熱水やアルカリ溶液には良く溶けます.エタノールにも溶けますが,アセトンなどの有機溶剤には不溶です.

2. 欠乏症

ビオチンが欠乏すると,ほ乳動物では,体重の減少に伴って口唇炎や脂漏性皮膚炎などが生じ,とくに眼瞼周囲の脱毛(眼鏡状脱毛),後肢の痙攣,異常姿勢(カンガルー用姿勢)が特徴的であります.またビオチン欠乏胎児では口蓋裂,小顎症,短肢症などがみられます.鳥類では,ヒナにビオチン欠乏の精製飼料を与えると,皮膚炎,飛節症,運動失調などの欠乏症状が起こります.
ビオチンは,多くの食品に含まれていることや腸内細菌によって産生されているために,一般にヒトでは欠乏症はないとされています.これまで,牛乳やワインと生鶏卵だけの極端な偏食者に,剥離性皮膚炎,脱毛や食欲不振などが見られています.これは,卵白中のアビジンが消化管でビオチンと結合し,ビオチンの吸収が阻害されたためであります.わが国ではビオチンが食品添加物として認可されていないため,調製粉乳,とくに治療用特殊粉ミルクを飲んでいる乳児にアトピー性皮膚炎が見られ,ビオチンの不足が指摘されています.ビオチン欠乏は,抗生物質の投与や完全非経口栄養によってもみられます.
ビオチンは,大量に摂取しても速やかに排泄されるので,副作用や過剰症はみられず,毒性の少ないビタミンです.

3. 生化学と生理作用

ビオチンの化学合成は,S.A. Harrisら(1946)によって完成され,ピメリン酸やシステインを原料とした方法が知られています.現在使用されている合成法としては,グルコースからアジド糖を経て,立体特異的にD型を得る方法があります.一方,ビオチンの生合成経路については,B. sphaericusや大腸菌を用いた研究によって確立されています.ピメリン酸からデチオビオチンまでの経路は酵素レベルで解明されており,デチオビオチンからビオチンの反応過程も解明されつつあります.
ビオチンと化学構造が類似した化合物としては,ビオシチン,オキシビオチン,ビオチンスルホキシドなどが知られています.ビオシチンは,ビオチンにリジンがアミド結合したものですが,卵白中のアビジンとの結合性があります.また,オキシビオシチンも,ビオチンの,50%の活性を持っています.
ビオチン関連酵素として,カルボキシラーゼは,炭素の転移を触媒している酵素であります.反応の第一段階ではATPを消費してビオチンにCO2を固定し,第二段階ではCO2を有機酸に転移します.4種類のカルボキシラーゼが知られており,糖新生,アミノ酸代謝,脂肪酸合成およびエネルギー代謝に関与しています.この他,トランスカルボキシラーゼやデカルボキシラーゼもビオチンを要求します.また,ビオチニダーゼは,ビオシチンやビオチニルペプチドを基質とするアミダーゼであり,ビオチンを解離させます.最近ビオチン結合タンパク質としての生理的役割も示唆されています.
ビオチン代謝異常症として,常染色体性劣性遺伝性疾患であるホロカルボキシラーゼ(HSC)合成酵素欠損症とビオチニダーゼ欠損症が知られています.HSC合成酵素欠損症は,新生児期から幼児期までに発症し,複数のカルボキシラーゼ活性の低下によりいろいろな症状を呈します.新生児期の発症では,呼吸障害,代謝性アシドーシスなどがみられます.一方,ビオチニダーゼ欠損症は,生後1週間から2歳までに発症し,痙攣,脱毛,皮膚炎,有機酸尿がみられます.これらの症状は,大量のビオチンを投与するとすみやかに改善することが知られています.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

ビオチンの推定平均必要量を算定できる十分なデータはありません.そのため,食事調査の値を用いて,目安量が決められています.
ビオチンは,2010年に「五訂増補日本食品標準成分表」に約500食の値が収載されました.そのため,国民健康・栄養調査結果にデータがありません.そこで,各研究者が行った報告値の平均値をもとに目安量を算定しています.男女差を算定できるほどのデータがありませんので,男女差は示されていません.18~49歳の成人で,ビオチン相当目安量は50μg/日と決められています.
ビオチンを多く含む食品として,日本食品標準成分表によると,ウシ肝臓などの内臓類,大豆(乾)などの豆類,卵黄が挙げられます.また食品ではありませんが,ローヤルゼリーには多量に含まれています.一方,野菜や果物のビオチン含量は低いです.

(9) パントテン酸

1. 発見・化学名

パントテン酸は,1933年R.J. Williamsらにより酵母の生育因子群”ビオス”として発見され,その存在が生物界に広く認められたことから至るところに存在する酸という意味で’pantothenic acid’と命名されました.化学名はD-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブチル 1)-β-アラニン)です.
その後,肝臓や米ヌカから得られた因子で欠乏するとヒヨコの皮膚炎や幼若ラットの成長障害を引き起こす因子が,パントテン酸と同一のものであることが示されました.
そして,1938年に,R.J. Williamsらによって,パントテン酸カルシウム塩の単離が,ついで1940年に化学合成の成功が報告され,構造が確定しました.

2. 欠乏症

パントテン酸の生理作用は,そのほとんどがパントテン酸から生合成されるコエンザイムA(CoA)および4′-ホスホパンテテインを補酵素として含む酵素類の作用に基づいています.特に,糖および脂肪酸の代謝とのかかわりが深く,そのため,パントテン酸の欠乏は細胞内のCoA濃度の低下を介して,エネルギー代謝の異常・障害をきたし,広範で複雑な病態をもたらします.
今日,パントテン酸の欠乏症はほとんど存在していないと思われていますが,ラットなどで実験的に引き起こされたパントテン酸欠乏症では,成長停止,体重減少,突然死,皮膚・毛髪・羽毛の障害,副腎障害,末梢神経障害,抗体産生の障害,生殖機能障害などが見られます.

3. 生化学と生理作用

パントテン酸の生理機能は,CoAやアシルキャリヤープロテイン(ACP)の補酵素である4′-ホスホパンテテイン(4′-phosphopantetheine)の構成成分として,脂質の代謝を中心に機能することであり,糖および脂質の代謝とのかかわりが深いビタミンです.
生体内代謝でのCoAやACPの役割は,酸化還元反応,転移反応,加水分解反応,分解反応,異性化反応,合成反応など,ほとんどすべてのタイプの反応に関与し,140種類以上の酵素の補酵素として機能しています.
最も重要なアシル誘導体は,アセチル-CoAで,糖,脂肪酸,アミノ酸の分解代謝で得られるC-2ユニットは,アセチル-CoAの形でプールされ,糖代謝では解糖反応の最終産物であるピルビン酸をアセチル-CoAの形でTCAサイクルへ導入する反応に,また脂肪酸代謝では,β-酸化反応などがこれに相当します.このようにしてプールされたアセチル-CoAは,再度代謝されて体内の構成成分へと変換されたり,エネルギー代謝に利用されます.例えば,脂肪酸の合成反応,不飽和化反応,分岐鎖アミノ酸の代謝,TCAサイクルにおけるα-ケトグルタル酸の酸化反応などがこれに相当します.
さらに,生理活性ペプチドの生合成において4′-ホスホパンテテインを補酵素とする酵素が数種類知られています.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

パントテン酸は明確な欠乏症の報告がないため,推定平均必要量を算定することができません.そのため,成人の摂取量は食事調査の値を用いて目安量が決められています.つまり,平成17年および18年国民健康・栄養調査の中央値が目安量とされています.目安量は,18~49歳の成人でパントテン酸相当量として,5mg/日,と決められています.成人では,男女差がありませんが,男女差が設けられています.
パントテン酸を多く含む食品として,日本食品標準成分表によると,ウシ肝臓,ブタ肝臓,パン酵母(乾),ニワトリ肝臓,落花生(乾),マッシュルーム(生),鶏卵, カリフラワー花序(生)が挙げられます.

水に溶けない(脂溶性)ビタミン

↓タイトルをクリックすると、内容が表示されます。

(1) ビタミンA

1. 発見・化学名

1915年E. V. McCollumは,ネズミの成長増殖に不可欠の未知の栄養素として脂肪に溶けるものと水にとけるものがあることを明らかにし,それぞれ脂溶性A,水溶性B因子と名付けました.1922年J. C. Drummondは,この脂溶性Aのなかに複数のものが含まれることを見いだし,その一つをビタミンAと呼びました.その構造は1931年 P. C. Karrerにより,炭素20個からなるジテルペノイドに属し,鎖状構造式の末端にアルコール基を持つことが明らかにされました.その後このアルコールが酸化されたアルデヒド体やカルボン酸が生体内において活性本体として作用していることが判明し,同じ生理作用をもつ合成化合物も含め,これらを総称しレチノイド(網膜[retina]より得られた一群の類縁化合物)と呼ばれています.一般に,ビタミンAという場合にはこの中のアルコール体(レチノール)を指しています.
また,緑黄色野菜に含まれるカロテノイドの一部には,動物体内でビタミンAに変わるもののあることが知られており,これらはビタミンAとしての効力をもつためプロビタミンAと呼ばれています.

2. 欠乏症

ビタミンAの欠乏症の代表としては,夜盲症があげられます.夜盲症は,暗くなると視力が低下し,また暗さに目が慣れるのがおそくなる症状を呈します.これは網膜にビタミンAからつくられるロドプシンという物質が不足することが原因です.A欠乏におけるもう一つの代表例は,皮膚乾燥症があげられます.皮膚が乾き,丘疹(こまかなぶつぶつ)ができると共に,粘膜の抵抗性が減少し,感染症にかかりやすくなります.
過剰症としては,皮膚の剥離,食欲不振,頭痛,吐き気や肝障害など様々な健康障害があげられます.特に奇形が発症することがありますので,妊婦や妊娠の可能性のある女性は,過剰摂取に注意が必要です.

3. 生化学と生理作用

体内に摂取されたビタミンAは,小腸から吸収され,肝臓で高級脂肪酸とのエステル体として貯蔵されます.肝臓に存在するビタミンAのエステル体は,必要に応じて加水分解され,レチノール結合タンパク質に結合し他の細胞に運搬された後,酸化されて生理作用を発現します.
ビタミンAの生理作用は,視覚作用と全身作用に分けられます.ビタミンAが視覚に関与していることは,欠乏すると夜盲症になることが良い証拠であり,このときの活性本体としてはビタミンA(レチノール)からの第一の酸化段階であるアルデヒド(レチナール)が関与しています.全身作用には,第二の酸化段階であるカルボン酸(レチノイン酸)がかかわっており,細胞の分化や発生,生物の正常な成長促進作用や皮膚粘膜形成など多くの作用があります.これらの作用は,核内受容体を介して遺伝子の発現調節により起り,現在,活発な分子生物学的な研究が行われています.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

日本人のビタミンAの推奨量は、18~49歳の成人において男性850μgRE/日(REはレチノール当量),女性650μgRE/日となっています.ビタミンAを過剰に摂取すると体内に蓄積され上記の過剰症がでるので注意が必要であり,一日2,700μgRE以下にとどめるのが良いとされています.過剰症としては,皮膚の剥離,食欲不振,頭痛,吐き気や肝障害など様々な健康障害があげられます.特に先天異常を発症することがあるので,妊婦や妊娠の可能性のある女性は,注意が必要です.
プロビタミンAであるカロテノイドは,このような過剰症がないことが知られているので,ビタミンAの摂取としては,ビタミンAおよびカロテノイドそれぞれから半量ずつとることが望ましいとされています.
ビタミンAを多く含む食品として,日本食品標準成分表によると動物性食品ではウナギ,レバー(とり)の他,牛乳普通,チーズ,バターなどの乳製品や魚が挙げられます.一方,カロテノイドを多く含む食品としては,カボチャ,人参やホウレン草などの緑黄色野菜があります.カロテノイドの代表であるβ-カロテンの場合,ビタミンAへの換算法は,腸からの吸収がビタミンAの6分の1とされていること,また半量がビタミンAに変換することから,摂取量の12分の1と言われています.すべての食品中のビタミンA含量は,レチノール当量として次の式で求められる.
レチノール当量(μgRE)=レチノール(μg)+β‐カロテン(μg)×1/12+αカロテン(μg)×1/24+クリプトキサンチン(μg)×1/24+その他のプロビタミンAカロテノイド(μg)×1/24

5. 備考

なお,カロテノイド類は,プロビタミンAの機能だけでなく,生体内に生成して,老化やガンなどの原因となっている活性酸素の消去作用(抗酸化作用)を有しており,ビタミンAの供給だけでなく,疾病の予防にも役立つことが知られています.

(2) ビタミンD

1. 発見・化学名

1922年,E.V.McCollumnによりタラ肝油中にクル病治癒因子が存在することが明らかになり,発見の順番に従いビタミンD(化合物名:カルシフェロール)と命名されました.その後,紫外線照射された食品中や動物体内にクル病予防因子が存在することがわかり,これがプロビタミンD(ビタミンDの前駆体)の光照射反応によって生成する物質であることが明らかとなり,1932年にビタミンDの構造が解明されました.天然に存在するビタミンDには,中心骨格となる5,7ージエンステロール(コレステロール骨格のB環部分が開裂した構造に相当する)のD環に結合した側鎖部分の構造のみが異なるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)とビタミンD3(コレカルシフェロール)があります.紫外線の照射によって,前者は植物や酵母に存在するプロビタミンD2(エルゴステロール)から生成し,後者は動物の皮膚に存在するプロビタミンD3(7ーデヒドロコレステロール)から生成します.くる病治癒活性に関して,ビタミンD2とビタミンD3はほ乳類においてはほぼ同等であり,通常,両者を総称してビタミンDと呼びます.

2. 欠乏症と過剰症

戸外で適度に日照を受けることのできる生活をしている人では,通常,食事からのビタミンD摂取が不足してもビタミンD欠乏症はほとんど起こりません.しかし,日照時間の短い地方に住んでいる人や屋内生活時間の長い高齢者では,ビタミンDの摂取不足により欠乏症が起こることがあります.ビタミンDの欠乏症では,乳幼児・小児では肋骨や下肢骨の変形を特徴とするクル病が,成人では骨の石灰化障害を特徴とする骨軟化症が現われてきます.レントゲン像で関節部の肥大や二重関節などの症状が認められるクル病発症早期では,食事へのカルシウム補充とともにビタミンD投与によって症状が改善されますが,ビタミンD欠乏状態が長期に続くと骨格の変形(O脚やX脚)から恒久的な歩行障害へと進展する場合があります.
ビタミンD欠乏症とよく似た症状を呈するものにビタミンD抵抗症があります.これは,ビタミンDの摂取量や皮膚での産生量に異常は無いものの,体内でのビタミンDの活性化障害あるいは腸や骨でビタミンD作用が起こり難いために結果的にビタミンD欠乏症と同様の症状が現われてくる疾患です.近年,わが国ではビタミンD欠乏症の発生は稀であり,むしろビタミンD抵抗症に対する対策が求められています.  
ビタミンDを過剰に摂取すると様々な副作用が現われてきますので,1歳未満の乳児では一日25μg(1,000IU;IUは国際単位でビタミンDのIUは約0.025μg),成人では100μg(4,000IU)が耐容上限量とされ、小児では体重比から外挿した値が耐容上限量として求められています.過剰症としては,高カルシウム血症,軟組織の石灰化,腎障害などがあります.ビタミンDの摂取によって過剰症が起こることは稀ですが,その1000倍の生物効力を有する活性型ビタミンDあるいはそのプロドラッグである1α-ヒドロキシビタミンDなどの医薬品の使用については十分な注意が必要です.

3. 生化学と生理作用

皮膚あるいは食品由来のビタミンDは血流中に入り,まず,肝臓で側鎖の25位が水酸化されて25‐ヒドロキシビタミンDとなり,次いで,腎臓でA環の1位が水酸化されて活性型ビタミンDと呼ばれる1,25‐ジヒドロキシビタミンDに代謝されます.活性型ビタミンDは血液中に存在する輸送タンパク質によって小腸,腎臓あるいは骨へ運ばれ,これらの組織の細胞内に取り込まれ,核内受容体との結合を介してビタミンD依存性タンパク質の遺伝子発現を促し,生理作用を現わします.これらの過程は,体内のカルシウムやリン濃度あるいはホルモンや様々な生理活性物質によって厳密にコントロールされています.このように,ビタミンDは栄養素であると同時にカルシウム代謝調節に関与するホルモンとしての一面を合わせ持ちます.
ビタミンDの生理作用は大きくカルシウム作用と非カルシウム作用に分けられます.カルシウム作用は,小腸でのカルシウム吸収,腎尿細管でのカルシウム再吸収,骨でのカルシウム沈着・溶出などの促進作用です.また,非カルシウム作用は,がん細胞などの増殖抑制と分化促進,副甲状腺ホルモンやインスリンなどのホルモン分泌の調節,T細胞やB細胞を介した免疫調節作用などがあります.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

日本人の食事摂取基準2020年版では,成人においてビタミンDの目安量は男性8.5μg/日,女性8.5μg/日であり,適度な日照を受ける環境にある乳児(0~5ヵ月および 6~11ヵ月)の目安量は5.0μg/日です.
ビタミンDは,日本食品標準成分表によると,ウナギ,サケ,イワシ,ニシンなどの魚類および天日干しのキクラゲ(乾)など一部の食品を除いて,ほとんどの食品中に僅かしか存在していません.
ビタミンD含量の比較的高い食品としては,動物性食品では魚肉や乳・乳製品,植物性食品ではシイタケなどのキノコ類です.しかし,体内の需要を満たす程度にビタミンDを摂ることはなかなか困難ですので,日照を適度に浴びることが最も効果的といえます.わが国では,一日,夏場で30分間程度,冬場でも1時間程度の日照で十分な効果が得られるようです.

(3) ビタミンE

1. 発見・化学名

1820年にH.A. Mattillらがラットを脱脂粉乳で飼育すると,繁殖できなくなることか発見され,1922年にH.M. EvansとK.S. Bishopが既知のビタミンを含む飼料で飼育すると不妊症になるのに,これにレタスを与えると回復することを見いだし,この未知物質をXと命名しました.このX物質が脂溶性の化学物質であったことから,B.Sureによって1924年ビタミンE(tocopherol)と命名されました.語源はTocos(子供を産む)+pher(力を与える)+ol(水酸基)=Tocopherolであり,H.M.Evansによって命名されました.

2. 欠乏症

ヒトでは欠乏症はないと長く考えられてきましたが,胆汁うっ滞などによる脂肪吸収障害や,未熟児,遺伝性疾患(家族性ビタミンE単独欠損症)などの特殊な状況では,溶血性貧血や運動失調などの神経症状がみられます.家族性ビタミンE単独欠損症は肝臓内のビタミンE輸送タンパク質に変異を示す疾患で,ビタミンEを体内に保持できないために血中濃度を正常に維持できず,神経障害,とくに脊髄後索に変性をきたすものです.
一方,過剰症はとくに示されていませんが,ときに下痢などの症状を示すことがあります.

3. 生化学と生理作用

ビタミンEにはα-,β-, γ-,δ-トコフェロールとα-, β-, γ-,δ-トコトリエノールの8つの同族体が存在し,そのうち生体内ではα-トコフェロールが最も多く存在します.α-トコフェロールの中でも8つの立体異性体が存在し,RRR-α-トコフェロールが天然型と呼ばれ,最も生物活性が高いとされています.栄養学的な使い方をする時はビタミンE,化学的な立場からはα-トコフェロールというのが一般的です.
その生理作用は,抗酸化作用によると考えられています.生体膜や油脂中に存在する不飽和脂肪酸の過酸化を抑制することが主な作用で,食用油の劣化(酸化)を防ぐためにα-トコフェロールが添加されています.生体内でもフリーラジカルと呼ばれる反応性の高い化学物質によって生体膜やリポタンパク質中の脂質が酸化されるのをα-トコフェロールが防いでいます.酸化リポタンパク質を貪食したマクロファージが動脈内皮下に沈着することによって粥状動脈硬化症が発症・進展することが知られ,α-トコフェロールはそのリポタンパク質の酸化を抑制して抗動脈硬化作用を示すとされています.
また,抗不妊作用も抗酸化作用に基づくことが,肝臓内でα-トコフェロールと結合するα-tocopherol transfer protein (αTTP)の遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた実験から確認されました.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

日本人の食事摂取基準2020年版では,成人においてビタミンEの目安量は男性6~7mg/日,女性5~6.5mg/日とされています.
日本食品標準成分表によると,ビタミンE含量の高い食品として,ヒマワリ油,サフラワー油,米ヌカ油,大豆油などの植物油類,マーガリン(ソフト),アーモンド(乾)や落花生などの種実類,小麦胚芽などがあります.

5. 備考

日本人の食事摂取基準2020年版でビタミンEの耐容上限量が18~29歳男性において850mg/日(α-トコフェロール),18~29歳女性においては650mg/日と設定され,市中薬局で購入する場合300mg/日,サプリメントのうち栄養機能食品としては150mg/日が上限とされています.

(4) ビタミンK

1. 発見・化学名

1935年,H.C.P. DamによりビタミンKはニワトリ雛の出血予防因子として発見され,その血液凝固(koagulation)作用に因んでビタミンKと命名されました.天然に存在するビタミンKには,主に植物の葉緑体で産生されるビタミンK1(フィロキノン)と細菌によって産生されるビタミンK2(メナキノン)があります.ビタミンK2には種々の同族体(化学構造が互いに類似した化合物)が存在しますが,このうち食品中に多く含まれるのがメナキノン-4とメナキノン-7であり,通常,ビタミンK1とK2を総称してビタミンKと呼びます.また,血液凝固に関して両者の生物活性はほぼ等しいことがわかっています.

2. 欠乏症

ビタミンKは他の脂溶性ビタミンと異なり体内での蓄積性が低いため,常に腸管より適当な吸収が行われなければなりません.しかし,通常の食事を摂っている限り健常人ではビタミンKの欠乏症はほとんど起こりません.これは,ビタミンKが様々な食品中に広く存在していること,また,腸内細菌が常に十分量のビタミンKを産生し供給してくれるからです.しかし,新生児,乳児,栄養補給の必要な病人,腸の手術を受けた患者などでは,それぞれ新生児(一次性)出血症,乳児ビタミンK欠乏性出血症,完全経静脈栄養下でのビタミンK欠乏症,腸内細菌数の低下によるビタミンK欠乏症,胆汁分泌不全によるビタミンK欠乏症など種々の欠乏症が起こる可能性があります.このような場合には,出血傾向あるいは血液凝固の遅延などの症状が現われてきますが,ビタミンKの投与により予防あるいは治療が可能です.

3. 生化学と生理作用

ビタミンK1は,植物の葉緑体で太陽の光エネルギーを化学エネルギーに変換する過程で電子受容体として働くと考えられています.一方,ビタミンK2は細菌において化学エネルギー(ATP)の産生,電解質輸送,細菌固有の運動性の支持などの役割を果たすと考えられています.
ヒトを含めて哺乳類でのビタミンKの最も重要な生理的役割は血液凝固因子の活性化にあります.プロトロンビンやその他の血液凝固因子はタンパク質ですが,それらの構成アミノ酸の一つであるグルタミン酸のγ位炭素のカルボキシル化を触媒する際の酵素,γ-カルボキシラーゼの補酵素としてビタミンKが働きます.これによって血液凝固因子はカルシウムイオンと結合した活性型に変わり,最終的にはフィブリノーゲンがフィブリンに変換され,血液凝固が起こります.
また,最近,ビタミンKは骨に存在するタンパク質オステオカルシンを血液凝固因子の場合と同様の反応で活性化し,ビタミンDとともに骨の形成を促進することが明らかとなってきました.これを裏付けるように,骨粗鬆症患者では健康者に比べ血中ビタミンK濃度の低下やオステオカルシンの活性化障害が比較的高頻度に見られるとの報告があります.また,臨床面においても,ビタミンKが骨粗鬆症治療薬ビスフォスホネートの効果を高めることが知られています.

4. 食事摂取基準と多く含む食品

新生児では,母乳中のビタミンK含量(100ml当たり1μg以下)が低いこと,腸内細菌によるビタミンK2産生量が低いことが推測されることなどから,ビタミンKの補給が必要であると考えられています.出生後数日で起こる新生児メレナ(消化管出血)や約1ヶ月後に起こる特発性乳児ビタミンK欠乏症(頭蓋内出血)は,ビタミンKの不足によって起こることが知られており,臨床領域では新生児に対してビタミンKの投与が行われています.これらの疾病を栄養面から予防する目的で,日本人の食事摂取基準2020年版では男女とも0~5ヶ月の乳児で4μg,6~11ヶ月の乳児では7μgを目安量としています.また,成人では,男女ともに150μgが目安量となっています.一方,高齢者では,胆汁酸塩類や膵液の分泌量低下,食事性脂肪摂取量の減少などにより,腸管からのビタミンKの吸収量が低下すると思われます.また,慢性疾患や抗生物質の投与を受けているヒトでは腸管でのビタミンK産生量が減少したり,ビタミンKエポキシド還元酵素(ビタミンKの再利用に必要な酵素)の阻害によるビタミンK作用の低下がみられるようになります.このような理由から,高齢者に対しては成人よりも高いビタミンK所要量が必要であると考えられますが,必要量を厳密に算出することが困難であるため,現状では成人と同じ目安量となっています.
ビタミンK1は,日本食品標準成分表によると,緑葉野菜・ほうれん草中に豊富に含まれており,これ以外にも植物油,マーガリン,豆類,海藻類,魚介類にも少量ながら含まれています.また,ビタミンK2は納豆,アオノリ,ほしのり,鶏卵,肉類・牛かた,乳製品・プロセスチーズに比較的多く含まれています.

5. 備考

ビタミンKの構造類似体であるビタミンK3(メナジオン)は毒性があるため現在はヒトに対して使用されていませんが,ビタミンK1とビタミンK2については大量に摂取しても毒性は認められず,耐容上限量も定められていません.抗凝血薬としてワルファリンの投与を受けている人の場合は,ビタミンKの豊富な納豆が禁忌(摂取または服用してはいけない)となっています.また,長期間の抗生物質の投与,慢性の胆道閉塞症,脂肪吸収不全症などではビタミンK欠乏が起こりやすくなるので,注意が必要です.

わかりやすいビタミンのやくわり

わかりやすいビタミンのやくわり(Flash Movie)

『ビタミン』は『力強いアミン』という意味だった(ビタミンと呼ぶようになった訳)

ジャンプしますと、音声とフリップで説明が始まります。お使いのコンピュータのスピーカーの音量を適切に調整してからご覧ください。

ビタミン並びに関連したバイオファクターに関するトピックス

Page
Top