日本ビタミン学会

ビオチンによるテストステロン産生上昇機構の解明Biotin Enhances Testosterone Production in Mice and Their Testis-Derived Cells

著者名(英文):Kota Shiozawa, Misato Maeda, Hsin-Jung Ho, Tomoko Katsurai, Md Zakir Hossain Howlader, Kimiko Horiuchi, Yumi Sugita, Yusuke Ohsaki, Afifah Zahra Agista, Tomoko Goto, Michio Komai, Hitoshi Shirakawa.
掲載雑誌名Nutrients. 2022 Nov 10;14(22):4761. doi: 10.3390/nu14224761.

論文サマリー

ビオチンは水溶性ビタミンのひとつで、カルボキシラーゼの補酵素として糖代謝、脂肪酸合成、アミノ酸代謝に関与する機能が知られています。一方で、これらの作用以外にも高用量のビオチンの摂取または投与によって新しい生理作用が報告され、本研究室からもグルコース応答性のインスリン分泌促進作用や高血圧改善作用、インスリン抵抗性改善作用などを報告してきました。また、ビオチンは精巣の機能に影響を与えることが示されていました。
精巣におけるテストステロン産生の低下を特徴とする男性の加齢に伴う症候群として、加齢男性性腺機能低下症候群が知られています。一般にテストステロン補充療法で治療されますが、これには副作用があることから、発症予防や重症化予防、または代替治療法が強く求められています。
本研究では、BALB/cマウスに高用量のビオチンを腹腔内投与(1.5 mg/kg 体重)したところ、血清と精巣のテストステロン濃度が上昇することが明らかになりました(図1)。また、テストステロン濃度の増加が、血清中の黄体形成ホルモン(LH)の増加を伴わなかったことから、ビオチンは脳の視床下部―下垂体による、LHを介したテストステロン産生調節機構による経路ではなく、精巣に直接的に作用している可能性を示唆する結果でした。
続いて、マウス精巣由来のライディッヒ細胞様培養細胞のI-10細胞およびMA-10細胞を用いたところ、ビオチンで処理した細胞は時間用量依存的にテストステロン産生を上昇させました。
精巣ライディッヒ細胞内でのテストステロン産生は通常、LHがLH受容体に作用し、アデニル酸シクラーゼ(ADCY)を活性化することにより細胞内cAMP濃度を増加させます。続いて、cAMPがプロテインキナーゼA(PKA)の活性化を介してcAMP応答配列結合タンパク質(CREB)等を活性化させることによって、ミトコンドリアにてコレステロールからプレグネノロンへと変換します。プレグネノロンは滑面小胞体にてプロゲステロン、テストステロンへと変換されます。
以上の経路阻害剤等を用いて作用機序の解明を行ったところ、ビオチン処理は、アデニル酸シクラーゼ(ADCY)の活性化を介して細胞内cAMP濃度を増加させ、続いてPKAおよびCREBの活性化を介してテストステロン産生を増加させていることが明らかになりました(図2)。
これらの結果は、ビオチンの摂取がテストステロン産生の低下に関連する加齢男性性腺機能低下症候群を改善する可能性があることを示唆しています。

グラフィックサマリー

図1 マウスへのビオチン投与による血清および精巣テストステロン濃度、血清黄体形成ホルモン濃度への影響

 

 


図2 ビオチンによるテストステロン産生促進作用の推定メカニズム

解説者コメント

本研究により、ビオチンが精巣に直接的に作用し、テストステロン産生の上昇に関与することを明らかにしました。今後、加齢男性性腺機能低下症候群の改善や精巣におけるビオチンの役割の解明につながることを期待しています。

 

解説者:塩沢 浩太(東北大学大学院農学研究科)

 
 

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