日本ビタミン学会

血中25-ヒドロキシビタミンD濃度と COVID‑19重症化の関連Association between 25-hydroxyvitamin D levels and COVID-19 severity

著者名(英文):Tomoki Takase, Naoko Tsugawa, Takayuki Sugiyama, Hiroaki Ikesue, Masaaki Eto, Tohru Hashida, Keisuke Tomii, Nobuyuki Muroi
掲載雑誌名Clin Nutr ESPEN 49, 256-263 (2022). DOI: 10.1016/j.clnesp.2022.04.003

論文サマリー

近年、ビタミンDはカルシウムや骨代謝だけでなく、感染症や糖尿病などの疾患との関連が示唆されている。感染症との関連については、ビタミンDの活性体である1,25-ジヒドロキシビタミンD[1,25(OH)2D]が抗菌ペプチドであるcathelicidinやdefensinの発現の誘導や、インターロイキン(IL)2,IL9,IL22,インターフェロン-γ,腫瘍壊死因子(TNF)-αなどの炎症性サイトカインの産生抑制、IL3,IL4,IL5,IL10などの抗炎症性サイトカイン産生促進を行うことが知られている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの中、ビタミンDとCOVID-19の重症化の関連について、血中25(OH)D濃度を用いた観察研究が報告され始めた。これらの研究では、COVID-19の重症化に関わる因子を交絡因子として多変量解析を行った結果、ビタミンDとCOVID-19重症化の関連があるとするものと、関連がないとするものがあり依然として議論が分かれている。また、日本人を対象とした報告はなかった。そこで、COVID-19で入院した日本人患者の血中25(OH)D濃度とCOVID-19重症化の関連を評価した。

2020年10月1日〜2021年1月31日に神戸市立医療センター中央市民病院に入院したCOVID-19患者117名を対象とした。これら患者の入院5日以内に採取した血液を用いて、血中25(OH)D濃度をliquid chromatography tandem mass spectrometry(LC-MS/MS)で測定し、カルテから抽出した重症化のリスク因子に関する情報と併せて解析した。

多変量ロジスティック回帰分析において、血中25(OH)D濃度の低下が侵襲的人工呼吸器の使用または死亡の独立したリスク因子であった(オッズ比: 1.22, 95%信頼区間: 1.06–1.40, p = 0.005) (表)。また、侵襲的人工呼吸器の使用または死亡に対する血中25(OH)D濃度のカットオフ値は10.4 ng/mLであった。血中25(OH)D濃度は一般的にビタミンDの重度の欠乏の状態が10 ng/mL未満とされていることから、日本人においても特にビタミンDの重度の欠乏とCOVID-19重症化の関連の可能性が示された。ただし、我々の研究を含めて現在の主なエビデンスは観察研究を基にしたものであり、今後はランダム化比較試験などによる臨床試験の結果が待たれる。

グラフィックサマリー

解説者コメント

自宅療養を行っているCOVID-19患者に多職種で往診を行う中、普段の薬剤師業務以外でCOVID-19の重症化の予防に貢献できないかと考えました。著者は学生時代にビタミンDの研究に従事したことから本研究の実施に至りました。血中25(OH)D濃度は日本の保険診療上で測定できる疾病が骨粗鬆症およびくる病、骨軟化症に限定されており、日本人でのエビデンスが報告されにくい状況でCOVID-19との関連性を示すことができました。

解説者:高瀬 友貴(神戸市立医療センター中央市民病院 薬剤部)

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