日本ビタミン学会

1989年と2016-2017年の母乳中ビタミンDおよび 25-ヒドロキシビタミンD濃度の比較Comparison of vitamin D and 25-hydroxyvitamin D concentrations in human breast milk between 1989 & 2016-2017

著者名(英文):Naoko Tsugawa, Mayu Nishino, Akiko Kuwabara, Honami Ogasawara, Maya Kamao, Shunjiro Kobayashi, Junichi Yamamura, Satoshi Higurashi
掲載雑誌名Nutrients 13, 573-585 (2021). DOI: 10.3390/nu13020573

論文サマリー

近年、ビタミンD欠乏・不足は世界的な問題となり、わが国でも魚類の摂取量減少や日光紫外線を避ける生活スタイルが定着しつつあることから、国民のビタミンD栄養を見直し対策を講じる必要性が生じている。なかでも、妊娠期、授乳期の女性のビタミンD栄養は自身の骨代謝に影響するだけでなく、臍帯血や母乳を介した胎児や乳児への影響が危惧される。元来、母乳中のビタミンD含量は乳児にとって十分な量ではないが、専ら母乳で哺育される乳児にとって母乳は重要なビタミンD補給源となり、くる病リスクを評価するためにも母乳中ビタミンD濃度を経年的に評価することは公衆衛生学上重要である。

このような背景から、1989年と2016年-2017年に収集された母乳のビタミンD3および25-ヒドロキシビタミンD3(25OHD3)濃度を、信頼性の高いLC-MS/MS法を用いて同時定量比較するとともに、母乳中ビタミンD濃度に影響する生活スタイル要因を検討した。

対象者は、雪印ビーンスターク株式会社が実施した第2回全国母乳調査(1989年)参加の授乳婦72名と第3回全国母乳調査(2016年-2017年)参加の授乳婦93名、合計165名とした。母乳検体は、-80℃密封状態で厳密に冷凍保存された3~4ヶ月乳を用いた。また、2016年-2017年の対象者については、BDHQ (Brief-type self-administered diet history questionnaire:簡易型自記式食事暦法質問票)によるビタミンD摂取量調査と戸外活動状況を含む日常生活の調査を行った。

母乳中ビタミンD3および25OHD3濃度は、1989年と2016年-2017年のいずれにおいても夏季に高く冬季に低いことを確認した。また、2016年-2017年の母乳中ビタミンD3および25OHD3濃度は、夏季において1989年の約1/2に低下していることを確認した(図)。2016年-2017年の授乳婦において生活スタイル要因と母乳中ビタミンD3および25OHD3濃度の関係を重回帰分析した結果、母乳中ビタミンD3濃度に対しては「過去12か月の屋外活動」、「季節」および「日焼け」が、母乳25OHD3濃度に対しては「季節」が独立影響因子となることが分かった。

年代間の差が夏季に表れていることから、近年の日光を避ける生活スタイルが母乳中ビタミンD濃度に影響している可能性が強く示唆された。オゾンホール発見を契機に1998年には母子健康手帳から日光浴推奨の記述が消え、くる病予防における日光浴の効能やビタミンD栄養の認識低下の要因になったと推測される。本研究結果は公衆衛生上の重要知見であり、母親に対する栄養教育の必要性が強く示唆された。

解説者コメント

約30年を隔てた母乳中ビタミンD濃度の年代間差を信頼性の高いLC-MS/MS法を用いて同時に比較できたことは、本研究の大きな意義と考えています。近年、くる病が増加しており、くる病発生と母乳中ビタミンD濃度低下との関係を明らかにすることも必要と考えます。

解説者:津川 尚子(大阪樟蔭女子大学 健康栄養学部健康栄養学科)

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